「兄弟全員のサインが必要」
この一言が、
想像以上に重いものだとは、
当時の私は分かっていませんでした。
その場ではとりあえず、もう一度サインをもらい、再度提出しますという話で解散しました。
帰り道でも、どうも妻も妻の父も浮かない顔をしています。
妻は「絶対に大丈夫」と言っていた父親への苛立ちもあったようでした。
私も妻から軽く聞いてはいましたが、
どうも兄弟の仲がとても悪いようです。
司法書士さんに診てもらった書類も、
全員がサインを書くまでに時間がかかったみたいでした。
ただ今回は妻のためということもあり、
そう長引くことはないだろう、
というのが妻の父の考えでした。
「とりあえず兄弟全員に連絡してみるよ」
そう言ってもらい、
少し不安はありましたが、
一度待つことになりました。
数週間後、
その不安は的中しました。
全く前に進む気配が見えません。
長男がサインをしないと怒り出したかと思えば、
次は次男もサインしないと怒り出す。
まったく収拾がつかない状態になっていました。
妻の父からは、
「誠意を見せろと言われた。指でも詰めろという意味か」
と、こちらも感情的な言葉が出るようになっていました。
そこで妻から、
兄弟にどういうお願いをしているのか、
メールの内容を見せてもらいました。
文章自体は、
たしかに敬語を使って丁寧に書かれていました。
ただ、
「本当はお願いしたくない」
という気持ちがにじみ出ているような文章でした。
実際、そのメールの中には、
「お願いします」
「頼みます」
という言葉が一言も入っていませんでした。
今思えば、
揉めた段階で一度立ち止まり、
考え直すべきだったのだと思います。
育ってきた環境が違う中に飛び込むことには、
それなりのリスクがあります。
そして、
最後までお願いしきれない妻の父に対して、
私はここでもまた、
小さな違和感を覚えていました。
そんな中、
打ち合わせを進めていたハウスメーカーから、
「坪単価が上がります」
という連絡が来たのでした……。
