「来月までに契約しないと、坪単価が上がります。できれば、早めにご決断いただけると助かります」
ハウスメーカーの担当者から届いたその連絡が、私たちの焦りに火をつけました。 当時の私たちは、まだ土地の名義すらハッキリしていない状態。親族間の話し合いは泥沼化し、そもそも「本当にここに家が建てられるのか」さえ確定していませんでした。
それなのに。 「今決めないと、損をする」 その恐怖にも似た感情が、冷静な判断力を少しずつ奪っていったのです。
なぜ、一条工務店だったのか

実は、私たちが最初に契約したのはセキスイハイムではありません。 当時、私たちが最も魅了されていたのは「一条工務店」でした。
「家は性能」というキャッチコピーの通り、圧倒的な高気密・高断熱。 「建てるなら、夏涼しくて冬暖かい、性能に妥協しない家がいい」 そう考えていた私たちにとって、一条工務店はまさに理想の選択肢に見えていたのです。
揺らぐ心と「仮契約」という魔法の言葉
私は担当者に、「土地も決まっていないのに契約なんてできない」と正直に伝えました。すると、担当者はこう提案してきたのです。
「一条工務店には“仮契約”という制度があります。今仮契約をすれば、その時点の坪単価で固定できます。もし万が一建てられなくなったとしても、詳細な打ち合わせに入る前なら、手数料の1万円を除いて契約金はすべて返金されますよ」

この説明が、私の背中を強烈に押してしまいました。
「1万円のリスクで、今の坪単価を確保できるなら……」
冷静に考えれば、土地の問題という「土台」がグラグラの状態で、建物の契約を急ぐ必要などどこにもありません。しかし、当時の私の中心にあったのは「理想の家づくり」ではなく、「損をしたくない」という目先の損得勘定でした。

違和感から目をそらした代償
「こんな形で、一生に一度の買い物の契約をしていいのだろうか」
心の奥底で鳴っていた警鐘を、私は無視しました。 こうして私たちは、一条工務店と仮契約を結ぶことになります。
その間も、土地を巡る兄弟間の揉め事は一向に解決の兆しを見せず、状況は平行線をたどったままでした。 見えない足元。急ぎすぎた契約。
この「小さな違和感」が、後に大きな後悔となって返ってくることを、当時の私はまだ知りませんでした。
「坪単価アップ」の連絡が意味するもの
「来月までに契約しないと坪単価が上がります」というハウスメーカーの言葉は、家づくりの現場でよく使われる「背中を押す一言」です。私はまんまとその言葉に動かされてしまいました。
今思えば、あの言葉に乗った理由は「焦り」だけではありませんでした。「今決めなければ損をする」という不安と、「もういい加減、前に進みたい」という疲れが重なっていたのです。長引く土地の問題に疲弊していた私は、「何か一つでも決めてしまいたい」という衝動に駆られていました。
一条工務店を選んだ理由
「家は性能」という一条工務店のキャッチコピーは、当時の私の心にまっすぐ刺さりました。断熱性能の高さ、全館床暖房、オリジナル製品の充実——数値で語られる家の性能に、理系的な安心感を覚えていました。
妻も一条工務店の展示場を見て「ここがいい」と言っていました。夫婦の意見が一致するメーカーに出会えたことで、「これで決まりだ」という感覚がありました。しかし、その後の展開は、私たちの予想とは大きく異なっていきます。
焦って決めた契約が、後の悔いにつながった
仮契約を結んだ翌日、「本当によかったのだろうか」という感覚がありました。土地の問題はまだ解決していない。なのに、契約だけが先に進んでしまった。砂の上に立てた仮の旗のような、頼りなさを感じていました。
家づくりにおいて、「焦って決めたこと」は後悔の種になりやすいものです。特に、状況が整っていないうちは、焦りに任せて動くよりも、立ち止まる勇気の方が大切だったと今は思っています。
この経験から伝えたいこと
振り返ると、家づくりの過程で私が最も欠いていたのは「立ち止まる勇気」でした。何かおかしいと感じても、流れに乗って進んでしまう。周囲の期待に応えようとするあまり、自分の気持ちを後回しにしてしまう。そんな繰り返しが、やがて後悔という形で積み重なっていきました。
妻の実家の土地に家を建てることを検討している方に、一つだけお願いがあります。それは「お金のメリット」だけで決めないでほしい、ということです。土地代がかからないことは確かに大きなメリットです。でも、それと引き換えに何を受け入れることになるのかを、できる限り具体的に想像してから決断してほしいのです。
10年後、20年後の自分が「あの時の選択は正しかった」と思えるように。そのための材料の一つとして、このブログが役立てれば幸いです。読んでいただきありがとうございました。
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